クリスタルは割れてなお崩れ続けた。内部の結合力がなくなったかのように、破片という破片は皆外へ落ち、大地に当たって粉になった。
 三人は吸い寄せられるようにこの無気味な光景に見入っていた。
 ローダンは思わず息を止めた。この奇抜な企てがうまくいったかどうか、今にも分かろうとしている。
 ケルマ=ヨがそっけなく言った。「サグス=レトが今帰ってきます。」
 「ひとりか?」ワリンジャーがしわがれ声を張り上げた。
 ダルゲートは答えなかった。どうやら何かの観察に没頭しているらしい。テラナー三人の目には未だ何も見えないが。
 この瞬間にもクリスタルは完全にその安定性を失い、雪崩をうって崩れつつあった。ローダンは灰色の埃が堆積しているさまを見て、遺骸の山だと思わずにいられなかった。
 これでは誰も住めないな。ローダンの頭をそんな思いがよぎった。
 「戻りました。」ケルマ=ヨが言った。
 ローダンはゆっくりとサグス=レトの方に顔を向けた。当のダルゲートのヌグウン=ケエルスはでかい鉛の殻のようにそこに横たわっていた。そこでは何も起きていなかった。ローダンはダルゲートのナンバー2の言葉を信じるしかなかった。
 「喋れるのかい。」サリクが尋ねた。
 「消耗していますが、じき回復するでしょう。」
 「で、ポーライターは?」
 ケルマ=ヨは何か物音を洩らした。それはほとんど嘆息のようだった。
 「それに関してはまだ何とも言えません。ひょっとしたら例の意識体は17の行動体のうちのどれかに収まっているのかも知れませんが。」
 ローダンの視線が浮遊したままのプラットフォームに並べられたアンドロイドの上をざっとなめた。
 「どれに?」思わず問いが口をついて出た。
 ケルマ=ヨがそのメカ触角で指したものは左から3番目の行動体だった。
 「これをサグス=レトと私で選んでおいたのですが。」
 「なぜこれなんだ?」ワリンジャーが知りたがった。
 ケルマ=ヨは何も答えなかった。
 「そいつはピクリともしない。」そう断じたローダンの表情は固かった。「実験は失敗だな。」
 それにもケルマ=ヨは黙っていた。どうも完全に相棒の観察に没頭しているようだった。サグス=レトも、選んでおいたアンドロイド体とやらも、いっこうに息を吹き返す様子が見られず、ローダンの焦りはつのるばかりだった。
 「あなたの言うのが正しいんじゃないかと心配でしかたがない。」ワリンジャーはローダンに向かって言った。
 そうするうちにもクリスタルの残骸はますます崩壊の度を増していた。あと30分もすればおそらくもう目に見えないほどになってしまっているだろう。
 その時サグス=レトが動いた。彼は自分の重たい生命維持装置の中でぐるりと向きを変えるとプラットフォームへと近寄った。そしてかねて選んでおいたというアンドロイドの前で止まった。
 「彼をこちらに連れ帰った、と思います。」彼は口を開いた。「それだけは確かです。」
 「けど、それはまだ動かない。」サリクの反論であった。
 「御存知でしょう、どれほどの長きにわたってクリスタルに閉じこめられてきたか。」ダルゲートは食い下がった。「少々時間をかければ勝手が分かるようになるでしょう。ただし、かつてやってのけたことがあるなら、ですが。」
 この回答は新たな気がかりの種を提供するものだった。三人から質問が次々と襲いかかり、サグス=レトは辛抱強く答え続けた。その間みな一瞬たりともくだんの行動体から目を離さなかった。
 「どうだろう、そいつを《トレーガー》に載せて検査したら。」ワリンジャーが提案した。
 ダルゲートコンビが即座に反対した。
 「今ポーライターを危険にさらしたり苦しめたりすることは一切するべきではありません。」サグス=レトが現状を説明した。「今まで苦労して手にいれたものが全てぶち壊しになるかもしれませんよ。」
 ワリンジャーは納得しかねるというふうで助けを求める視線をローダンに向けた。
 「ここはケルマ=ヨとサグス=レトの言葉に頼るしかあるまい。」ローダンはそう断を下した。
 「だからといって永遠に待っているわけにもいかないだろうが。」ワリンジャーは粘った。「ミュータント全員と我々活性装置保持者がクラタウにこれ以上長く留まった場合の悪影響を考えろ。おまけに例の危険だってまだある、セト=アポフィスがダルゲートコンビへの支配を回復するとか、もしくは何か別の形で介入するとか。」
 ローダンはワリンジャーの抗議も正しいと思った。彼はサグス=レトの方へ顔を向けた。「全てがうまくいったかどうか分かるのはいつごろになる?」
 「その質問に答えることはできません。」それが物質暗示者の返事だった。「全ては、あれ次第ですね、つまりどのくらい早く彼が…」
 その言葉はイェン・サリクの金切り声でとぎれた。当の深淵の騎士は腕を伸ばして行動体の一体を指さしていた。
 「そいつが動いた!」サリクは言った。

 ローダンはじっと憑かれたように見つめていた。激しい痙攣が蟹のようなアンドロイドの体じゅうに走るのを。動きはひとつとしてコントロールされておらず、ただ単にこの体に生命が宿ったことしか示してはいなかった。またこの存在形態でも知性が発達し、はっきり喋れるようになるかどうかは、今はまだ何とも言えなかった。ただ少なくとも、ひとつの成果が今勝ち取られたのである。
 ローダンは、サリクもワリンジャーも興奮しきっているのに気がついた。今にもあの神秘のポーライターと言葉を交わせるかもしれない、その見込みが開けただけでもそもそも大変なことである。実のところ誰もそんな事態を予期してはいなかった。
 ケルマ=ヨはサグス=レトの脇に身を横たえていた。ローダンの目にダルゲートコンビの一方がそのアンドロイドに自分のメカ触角でさわるのが映った。
 行動体はどうやら起き上がろうとしているようだった。
 「手助けしてやらないと。」ワリンジャーが言った。
 「いや」ローダンが止めた。「ここはひとつダルゲートコンビに全て任せよう。彼らなら何をすべきかわきまえている。」
 内心ローダンもじりじりしつつ、次の一歩を待った。新たな気がかりもあった。もしポーライターが正気を失ったら、あるいはもしセト=アポフィスに乗っ取られたら。後者が可能かどうか、ローダンには分からない。そもそも誰がセト=アポフィスのエージェントにされ得るのか、またどんな方法でなのか、それらは全くと言っていいほど知られてはいなかった。
 クラタウの地表に夕闇が迫ってきた。《トレーガー》のロボットが再度投光器を設置した。その光はあたりを昼間のように照らした。
 行動体は浮遊プラットフォームから滑り落ち始めてしまった。物質暗示者コンビがそれを押さえた。その時中へそっと話しかけたのだが反応はなかった。
 ケルマ=ヨとサグス=レトはアンドロイドを立たせた。しかし酔っ払ったようにあっちへこっちへフラフラするばかりだった。この人工体の内部の意識体はまだ流暢な動きをつかみきるに至っていないようだった。まだ一度もうまくいっていないといっていい。
 ローダンはどんな予期せぬことがおころうと即刻対処できるよう身構えていた。一方ダルゲートコンビはゆったりと落ち着いていた。
 ひとしきり激しくアンドロイド体が痙攣した。ケルマ=ヨとサグス=レトがやむを得ず支えるのをやめると、完全に平衡を失ってしまった。しかしまた持ち直した。そのせいで体はひどくよろめいた。
 ローダンは8つの円形に並んだ目で絶えずじっと見つめられているような気がしていた。もちろんそれは気のせいなのだが。
 行動体はゆっくりひとつの軸を中心に体を回転させた。ダルゲートは手を貸すようなそぶりを全く見せなかった。しかしそれでも行動体は自分の脚で立っていた。
 しばらく後、この奇妙な生物はわけの分からない音を発した。それは紛れもなく最初の疎通の試みだった。
 「喋ろうとしてる!」サリクが駆け寄ってきた。「これで全機能が作動ってことかも。」
 「まあ待とう。」ローダンは早すぎる楽観主義に警鐘を鳴らした。「単なる苦痛と困惑の声かもしれない。」
 実のところアンドロイドの出す音はどれも、むしろ音節も定かでないものにしか聞こえなかった。
 「時間はかかりますが。」サグス=レトは言った。「もう成功は確実です。ポーライターはこの行動体の中にいるし、コントロールするようになるのも時間の問題です。」
 ローダンは、ポーライターがかなり困惑しているとの印象を持っていた。ローダンにはこの異星の存在がいらだっているように見えたのである。自分が救助を受けたのだと感じるかどうか。実り多い努力がまたすべて無に帰すような誤解に行きつかなければよいが。
 突然、ポーライターが意味の通った一連の単語を口にした。
 それははっきりと聞き取れた。
 ローダンは衝撃を受けた。その言葉がすぐに分かったから。
 それはペリー・ローダンもイェン・サリクもマスターした言葉、力強き者たちの言語であった。

 ローダンは急いで自分の翻訳機を再初期設定した。彼もサリクも力強き者たちの言葉は分かるのだが、ポーライターがこの言語の原形にあたるものを使っていた可能性もある。それだとこの先聞き取れないかもしれない。
 ローダンは、ダルゲートコンビが全てを取り仕切るのはもう充分と判断した。ダルゲートがその行動を受け入れるかどうかなどにかまわず、ローダンはポーライターに歩み寄った。自分の前にあるそれはポーライターの体ではない、このことは念頭におかねばならない。見えているのは人工的な殻であり、その中にポーライターの意識体がいる。
 彼は腕を上げ、アームバンド通話器に小声で話しかけた。
 「グッキーにフェルマー、ちょっとこっちへ来て例のやつを一度じっくり見ないか。」
 周辺監視に当たっていたミュータントコンビは最も高速で簡便な方法で数瞬後に姿を現わした。二人には日常茶飯事の、ネズミ=ビーバーのテレポーテーション1回。
 「何がどうなったか説明するために呼んだわけではないからな。」ローダンは単刀直入に言った。「テレパシーで何が分かるか確認してくれるか。」
 何千回となくこのような実験を試みてきたグッキーとロイドは、すぐさま仕事に取り掛かった。
 「ポーライターのひとりだってことは間違いないよ。」数瞬後すぐ、グッキーが言った。「彼の名前はクリュンヴァント=オソ=メグ。最初のとこは個人の名前、2番目は昔のポーライターの部族へのちょっと言い表しにくい所属形態に関係していて、3番目はこの我らが友人の職業とか地位とかを表してる。オソは何て言うかその、一種の水利権の専門家だな。」
 「それで、感じていることは?考えていることは?」ローダンは知りたがった。
 今度はフェルマー・ロイドが答えた。
 「幸運と安堵とで頭がいっぱいですよ。」ミュータントは言った。「彼はもう救助されるとは思っていなかったんです。残念ながらグッキーも私も思考のほんの一部しか捕えられなくて…テレパシーの類いでは彼の思考までたどりつけません。」
 ローダンはためらいながらまたポーライターの方を向いた。
 「クリュンヴァント=オソ=メグ」力強き者たちの言葉で彼は語りかけた。「仲間を代表して私から水利権の専門家にご挨拶申しあげます。」
 行動体は驚いたように後退りした。
 「そんなことをされるってのも思ってなかったよ彼は。」グッキーはそっけなく言うとニヤついた顔から牙をのぞかせた。「けど、もうこの不意打ちから立ち直る。」
 「どこで…どこであんたは私の名前と我々の言語を知った?」当のポーライターが突っ込んできた。
 ローダンは笑顔を見せた。
 「もう惑星クラートに行ってきたのです。」彼は説明した。「そこの古いポーライターステーションに滞在して、モラガン=ポルドの石の憲章を見ました。」
 「クラートか。」クリュンヴァント=オソ=メグの心が揺れた。「新モラガン=ポルドも知っているのか。」
 「いいえ。」ローダンはありのままを伝えた。
 「この球状星団の中心部にある私たちの隠れ家、強力な五惑星系施設のことだ。それを私たちは長い時間をかけて築きあげた。コスモクラートへの奉仕活動から引退したときだった。あの時私たちの仕事は深淵の騎士が引き継いだのだったな。」
 彼はためらいながらローダンからサリクへと目を移した。
 「思うに、あんたがた二人とも騎士の地位をもっているようだが。」彼はそう付け加えた。
 「全惑星よ!…それを感じ取れるとは!」信じられないとばかりにサリクが叫んだ。
 ローダンはうなずいた。
 「よかったらひとつ歴史を語って聞かせてはくれまいか。」オソの方を向いた。「ポーライターの歴史を。」
 「よろこんでお話ししよう。」オソは答えた。「長いこと沈黙を強いられてきた者にとっては、また話せるというのはうれしいものだな。」
 そして、彼は語り始めた。……

 「心配なのは、」ポーライターはおしまいにこう言った。「ノルガン=トゥールからここまでやってきた7万の仲間のうち、良くてもう10パーセントしか生き残っていないのではないかということ。けれどもみんな虜囚の身だ。」
 「それで、新モラガン=ポルドは?」ローダンは尋ねた。「当時あなたがたが築いた小さな領土はまだ存在していると思うか?」
 「それを私は確かめたい。」オソは鋭く言い放った。「だから一刻も早くそこへ行きたい。その前にしかし、まだ生きている私の仲間全員をあの恐ろしい牢獄から解放してやらないと。」
 この願いをローダンは予期していた。明日という日がどう過ぎ去っていくかというあるビジョンが彼には見えた。ポーライターの捕われた全ての世界でのダルゲートコンビの大車輪の活躍。ローダンにはケルマ=ヨとサグス=レトのポーライター救出作業が一種の慣れで手早くなるという目算はあった。それでも7万の存在を助けるにはかなり時間を食うだろう。
 「どうした?」ポーライターは急かすように尋ねてきた。「他の仲間を助けることはできないとでも言うのではないだろうな。」
 ローダンがダルゲートコンビの方を向いてその点を尋ねると、期待通り全ポーライター救出の用意があることを確認できた。
 「当時あなたの仲間はみなこの狂気の行動に走ったのか?」ローダンは信じられないとばかりに尋ねた。「もしかしたら五惑星系施設世界に小さなグループがまだ残っているんじゃないか?」
 ローダンはオソのこの質問に対するかなりの拒絶反応を感じた。
 「いや。」ポーライターはポツンと言った。
 ローダンはグッキーにひとつ合図を送った。
 「僕ら、なかなかこいつの感情や思考全部を探ったり分析したりはできないでいるんだけど。」イルトは説明した。その類いの質問をどうやら予期していたらしい。「たぶん、ポーライターの意識体の中には一種の遮断器がある。そいつが意識的に働くのか無意識なのかはどうせフェルマーにも僕にも分からないんだけど。」
 クリュンヴァント=オソ=メグから聞いた驚異的な物語のみによってその大古の種族の全ての謎が一度に解けたら、それは奇跡だろうとローダンも思っている。今まず問題なのは他のポーライターの救助である。オソの助力があれば、さまざまな形態でまだ存在しているその仲間全てを捜し出すことも可能なはずだが。
 さしあたっては遠征のたびに悩まされているあのネガティヴな効果から逃れるために、一度全員《トレーガー》でM3を離れなければならない。もしかしたらオソなら、どうしたらM3のバリアの影響から逃れられるか知っているかもしれない。
 「いずれ近いうちに五惑星系施設へついてきてもらうことになるだろう。」ローダンはポーライターに告げた。
 オソは体をこわばらせた。
 「原則的に私はそれに反対はしない。」彼は説明した。「ただし私があんたたちと一緒に新モラガン=ポルドに行く前に、是非仲間を全員助けてほしい。」
 ローダンとサリクは素早く視線を交わした。ポーライターは是非ともこの条件を認めさせたいらしい。ローダンは如才ない振舞いでその点に触れないようにした。立て続けに頼られていることでもあるし、和解もできるだろう。
 「ひょっとして」彼はオソに言った。「あなたなら何か説明できるのではないか、3つの究極の問題にまつわることを。私は特に例のフロストルービンに興味があるが。」
 ポーライターの8つの目が投光器の光できらりと光ったように見えた。
 「それに関する資料は新モラガン=ポルドにある。」彼は答えた。
 条件の出し直しか。ローダンは苦々しく思った。オソは当然フロストルービンを知っている、ただまだ自分の情報は出したくないのだ。
 ローダンがさらに質問をしようとする前に、オソはまっすぐ彼を向いた。
 「なぜここには深淵の騎士2人しかいない?」ポーライターが聞いた。「この重要な任務は大勢の監視騎士団メンバーにこそふさわしいのだが。」
 ローダンは皮肉まじりに頭を下げ、サリクの方にも合図を送った。
 「ここであなたと巡り合った者、つまりサリクと私がかの上位権力者の旗をかかげる最後の集団なものでね。監視騎士団はルネサンスでも経験しないことには。現在はイェンと私が深淵の騎士の代表者だ。」
 クリュンヴァント=オソ=メグは驚いたようだった。
 「そんなはずは、ない。」オソは声を絞り出すように言った。「考えるだけでも恐ろしい、監視騎士団のメンバーがそんなにも減ってしまったとは。あんたがたはあの予言を聞いたことはないか、最後の深淵の騎士が去ったとき、宇宙の全ての星の火が消えるという。」
 「その予言なら聞いている。」ローダンは認めた。「もっとも内容については世の中の他の予言と変わらないと見ているが。未来と言うものは誰も正確に言い当てることはできない、という点で。」
 「では…、では誰があんたがたの仕事をやるというんだ?」口ごもるオソはまだ正気に戻っていなかった。
 「知っているのはコスモクラートだけだ。」ローダンは笑って、「難問は山ほど控えている。中でも我々がセト=アポフィスと呼んでいる、ネガティヴな進化をとげた超知性体の問題が大きい。今心配なのはあちらが先に新モラガン=ポルドを見つけて先回りしないかどうかだ。そうなったらこちらは不愉快な歓迎を覚悟するはめになる。」
 この言葉のポーライターへの効果を待って、ローダンは先を続けた。「オソ、あなたは長いこと情勢の進展とは疎遠だった。我々の暦で200万年余りも。この状況では我々を信じて全てを委ね、含むところなく全情報を明かすべきではないか。」
 「いや、用心しないと。」オソは頭を甲殻にすっかり引っ込めてしまった。「私の種族はとり返しのつかない過ちを一度犯し、そのために滅びたわけだからな。」
 このポーライターの説得は当分無理だとローダンは悟った。オソの不信感は強い。
 ローダンは《トレーガー》の方を指し示した。
 「我々の宇宙艦に乗ってもらえないか?我々は疲労回復のために球状星団を離れなければならない。特にあなたの種族があちこち設置したバリアにはえらく疲れさせられる。」
 今度はオソはあまり考え込まなかった。
 「もちろん一緒に行く。」彼は言った。「ただし必ずここへ戻ってきて生き残っている私のグループのメンバーを解放してほしい。カラペデル=ノロ=ゴルクを救い出せたらいったい何と言うか是非聞きたい。なにしろこの恐ろしい計画の推進に最も熱心な一人だったからな。」
 「その点は安心してもらいたい。」ローダンはうなずいて保証した。「ここに戻ってポーライターの捕らわれている他の惑星も全て立ち寄る。もちろん座標を教えてもらえるのだろう?」
 オソは浮遊プラットフォームによじ登ると、行動体をしげしげと見つめた。
 「まったくみっともない格好だな。」彼は嫌悪感むきだしで言った。「こんなものに移るために誰かが自分の本当の体を捨てるなど、あんたがたには想像もつくまいよ。」
 「たしかに。」ローダンは認めた。「しかしそれは本心ではないだろう、私があなたを本当に理解したとすれば。あなたたちは進化の次のステップを強引に勝ち取ろうとしたのだ。」
 「我々がどのくらい疲れ老いていたか、今つくづくと思い知らされる。」オソは言った。「こんな馬鹿げた考えに抵抗する力を一人として持っていなかった。私にもなかった。心の中ではあれほど反感を持っていたのに。」
 ローダンはオソが思い出の中に没してしまわないうちにと、再び《トレーガー》を指した。
 「さ、行こう。」ローダンは促した。
 サリクと彼は行動体を間にはさんで立った。飛行機械には余裕を持ってポーライターと2人を運ぶだけの十分な馬力があった。
 別のが続いた。ローダンは他の行動体の監視のためロボット2、3体に戻るよう命じた。これは誰かがここへ来るのを妨げるためかとも見えるが、ローダンはただ一行が戻ったときにアンドロイドの受け入れ体制を確保しておきたかったのである。
 心の中ではローダンは既にM3の中心部、新モラガン=ポルドの五惑星施設へと飛んでいた。隠れ家の話が出たとき、さまざまな形でオソは奇妙な反応を示した。そのことをローダンは考えていた。
 確かにオソを疑う根拠はない。かのポーライターはひとつの体に入っている。それは自分のもともとの体ではない。それでもクリュンヴァント=オソ=メグからはポジティヴなオーラが感じられる。それはもしかしたら、騎士の地位にある存在も備えているある種の放射と似た、ポーライターを自分の固有のバリアから守っているものなのかもしれない。
 そして、じきにこのバリアもなくなる。
 そうすればこの神秘に満ちた球状星団の深部への道が完全に自由になる。
 ローダンはあの昔の興奮を感じた。それはかつて、宇宙の新天地の開拓が関わるときいつも、彼をとらえて離さなかったものである。滅多に裏切られることのない彼の予感が語りかける。今度という今度は本物だと。
 なかでも大きいのは、オソがフロストルービンの秘密を知っていること。
 そしておそらくオソは他の2つの究極の問題についても多くを知っていることだろう。
 一行はエアロック内に着地した。すぐ後ろにサリク、ダルゲートコンビと数体のロボットが続いた。グッキーとフェルマー・ロイドはとうに艦にテレポートしてしまっていた。
 オソは物珍しげにあたりを見回した。見たものに感銘を受けてもらえると嬉しいのだがとローダンは思った。
 「艦へようこそ!」力強き者たちの言語でローダンは高らかに言った。
 行動体の8つの目が彼を見つめた。
 「もう長いこと私は誰からも歓迎されたことがなかった。」オソは言った。「素敵な気分だよ。素敵な気分だ、事実上の死を一度迎えた後、再び生を受けるというのは。」
 ローダンは振り返ってエアロックから惑星の表面を見やった。ちょうど最後の投光器が消され、クリュンヴァント=オソ=メグが長い間閉じこめられていたクリスタルは、もう見えなくなってしまっていた。

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