9.旧ミュータント(3444年、570巻〜599巻)

 それは3444年に始まった。大群からの太陽系解放と白痴化放射の停止からほぼ8か月が過ぎていた。

 この年の8月1日、太陽系帝国ではまた大執政官職の選挙が行われた。ローダンの政敵は大群危機の間の彼の無責任な行為を非難にかかったが、ローダンがそんな非難に一切抗弁しなかったのは、全く別の不安があったからだった。

 エクスプローラー艦隊のロボット艦がその数日前に突然、地球から8万光年のかなたの銀河宙域から帰還してきたのである。さらに意外なことに、その艦に乗っていたのはヘイドラク・コートと名のる、見慣れぬ生命体アスポルコスだった。彼は言う。自分の種族は『苦悶の声』に隷属させられており、いずれは人類にも影響を及ぼすと。

 このばかげた話の源を究明すべく、ローダンは巡洋艦《ティモール》にミュータントを数人伴い、惑星アスポルクの属するラトレイ系へと出発した。《ティモール》の乗員は到着と同時にある種の精神放射にさらされた。それは6次元放射を発する金属によるもので、アスポルコスの儀式用の金弧(頭環)もその金属で作られていた。疑似生命的感情転換物質、PEW金属とも呼ばれるこれは、アスポルクでは唯一、太古の昔に落下した巨大な隕石にしか存在しなかった。事がはっきりしないまま、一行は太陽系へ帰還した。

 この後間もなくリバルト・コレッロが奇妙な状況で姿を消し、謎の力の呪縛にかかってしまったことがすぐに判明した。『苦悶の声』である。一方アラスカ・シェーデレーアは意外にも神秘の少女キトマに再会し、不可思議な世界へと導かれた。そこには謎の『都市』があった。アラスカは、キトマが36の大群建造種族の一員であることを知る。

 地球へ帰還したシェーデレーアはコレッロの力につかまる。二人の行く手には南海の未知の古レムール人の基地があった。コレッロは約5万年前に機能停止した基地を再起動。二人の逃亡者は、レムール人が当時人員不足から生体エネルギー計画を開始していたことを発見した。これは受精卵細胞内からわずか8週間で成人を生み出すというものである。そのように生み出された存在の精神的能力は、ヒュプノ教育によって与えられる。コレッロはエネルギー保存された科学者を覚醒させ、8体の合成体(『ノーマルシントス』)製造を強要した。二人の行方を追ってきたテラ防衛軍には、それでやっと『苦悶の声』が本当は誰なのかが明らかとなった。それは第2次遺伝子危機の際命を落とした8人のミュータント、イシバシ、カクタ、マルテン、ノワール、セング、オークラ、タウフリー、ヨキダだった。2909年のその日、死者たちは自身の意識体を超空間へ転送することに成功し、そこでじっと、アスポルクのPEW金属によって3444年にコンタクトが成立するまで留まっていた。しかし、生き延びるには体が必要で、そのためにノーマルシントスを利用しようとしたのである。試みはしかし失敗。合成体をレムールの勇敢な戦士に仕立てるという遺伝子基本プログラミングのせいで、ミュータントの制御が十分には効かなかった。ノーマルシントスは壊死し、用意されていた19億以上の受精卵細胞はコレッロの性急すぎる逃亡で破壊された。結局、8名の旧ミュータントはひとつのアストラル体に入った。

 アトランの助力により、彼らは体内のPEW金属を安定化させるために再びアスポルクを目指した。しかし彼らのアスポルク到着によって、一連の奇妙な事件が始まった。PEW鉱脈を持つ巨大隕石が大型宇宙船としての姿をさらした直後に発進、アスポルコスの世界にカタストロフ的な付随現象を生じさせた。ローダンの指示により大規模なアスポルコス救援活動が開始された。

 旧ミュータントたちはアストラル体をあきらめ、アスポルコスの体へと逃げ込んだ。その直後彼らは鏡像宇宙との短時間のコンタクトを持った。

 《マルコ・ポーロ》はPEW隕石の追跡にかかっていた。隕石内部でテラナーはパラマグに遭遇。彼らはPEW鉱脈を転送レールとして利用しており、テレポーター並みの速さで動くことができた。旧ミュータントたちもまたPEW鉱脈のミクロコスモスを調査し、それが巨大宇宙船の乗組員を5万年の眠りからの再覚醒を促した。しかし、PEW金属の一風変わった知性体、パラドックス1複合体もまた活性化した。そしてとうとう隕石船は目的地、銀河中心核に位置する赤色巨星パラマグ・アルファに到着。この星のまわりには2100の巨大隕石と80万を越す小天体が回っていた。この残骸星系こそ、パラマグの故郷である。彼らは惑星ポルデュポルの残骸の内部に住んでいる。その残骸はワーベと呼ばれていた。

 隕石宇宙船は残骸リングに隙間なくぴったりとはまった。グッキーとイホ・トロトは転送装置によって、予期せず11万年の昔に移送される。二人はまだ破壊されていない頃の惑星ポルデュポルの、科学者と僧侶の政争を体験する。僧侶は結局惑星の破壊を招いてしまう。その力でグッキーとトロトはまたも時間軸上を移送されるが、今度は現在時間の方角だった。ついたのはハルター戦争の時代、約5万年前。この時代でグッキーとトロトはタイムパラドックスを引き起こしてしまう。派遣されたパラマグの宇宙船の1隻が航行中に太陽系に到達、当時まだ存在していた惑星ツォイトにPEW金属を発見したのである。二人は宇宙船のポジトロニクスの記録データを操作。それにより、宇宙船は太陽系には到達したもののツォイトには着陸せず、飛び続けてもと通りアスポルクに墜落した。

 現実時間でもパラマグは銀河のPEW金属の全てを要求、しかも太陽系の銀河ポジションデータは隕石内の記録センターにまだ残っていた。パラマグはしかし、惑星ツォイトがもう存在しないことを知らなかった。パラマグの侵略が太陽系を脅かす。危険が迫ったまさにその時、テラナーはパラマグの発進基地ワーベ1を破壊。別の残骸、ワーベ1000は、8名の旧ミュータントの一時的な新しい故郷として捕獲された。このパラ・バンクは銀河の平穏な星域のひとつ、トロト凝集星団の中に設置された。

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