10.〈それ〉(3456年〜3458年、600巻〜649巻)

 地球では3456年を迎えていた。人類を始めとする銀河系諸種族は大群危機を完全に克服し、様々な分野で進歩が見られるようになっていた。

 宇宙航行技術の進歩に貢献するNUGシュバルツシルト反応炉の一連の実験で、《マルコ・ポーロ》は突然並行宇宙へ移行してしまった。ペリー・ローダンと彼の部下たちがたどり着いたその連続体は、たったひとつの要因を除けばもとの宇宙とそっくりだった。その並行宇宙では、人類は1500年間呵責なきローダンII の専制政権に弾圧されていたのである。

 《マルコ・ポーロ》は悪夢の惑星、並行地球であるテラII に到達した。そこはまるでその残忍な支配者の私設監獄だった。グッキーもラス・ツバイも自分のネガティブな片割れと対決しなければならなかった。同盟者を捜してローダンは惑星パルピロンに飛んだ。そこの住民は中世的封建制度の下で生活していた。そこでようやく、ローダンはオクストーン人2人およびこの世界のワーベ1000の旧ミュータントたちとの間に無法政権と戦う同盟を結んだ。

 舞台は宇宙ステーション《ギャラックス・ゼロ》に移る。そこは銀河内航行の通信拠点の役割を果たしていた。星間種族たちの競技「宇宙船マラソン」中に、独裁者の旗艦《マルコ・ポーロII 》を破壊することに成功。しかしローダンII とダントンII は脱出。2人は氷惑星D=ムナーにたどり着いた。そこでペリー・ローダンとネガティブな生き写しは決闘をすることになり、ついに独裁者は力尽きる。その直後《マルコ・ポーロ》は元の通常宇宙に移し戻された。

 人類が2つの宇宙勢力の手球にされているとはまだ誰も思わなかった。〈それ〉と〈反それ〉は宇宙的チェスゲームを進めていた。宇宙のこの領域の覇権を明確にするために。〈それ〉は与えられた規則を守るが、〈反それ〉は勝利をさらうためには手段を選ばない。

 それからしばらくして、銀河に突然PAD病が発生した。第一段階では発作的に精神に変調をきたし、それにより抑圧されていた願望が潜在意識から浮かび上がる。3457年1月、弱体化した人類を叩くためにほとんどの銀河系種族(スプリンガー、アラス族、アコン人を含めて)が連合。しかし同時に伝染病は第二段階に進んでいた。発病者の帰巣本能が際限無く増大し、その結果地球植民星の数十億が一心に故郷テラを目指した。

 このことから、伝染病はハイパー通信波を介して運ばれるらしいことが分かった。

 特効薬を産み出す試みはすべて失敗に終わっていた。この伝染病のアンドロメダへの蔓延は、最後の瞬間に宇宙駅ミッドウエーステーションで、感染したマークスの足止めによって阻止された。

 5月、伝染病は最終段階に入った。犠牲者は苦痛にさいなまれて朦朧となり、無反応のまま死を迎える。

 この絶望的状況に、どうやらPADに免疫の唯一の銀河系人らしい謎のコル・ミモがペリー・ローダンの前に現われ、時間修正によってPAD病が発生しないようにしてしまうという計画を説いた。それにはペリー・ローダンが一人で過去に赴き、並行宇宙のネガティブな生き写しを自分の手で殺すことになるように行動していかなければならない。アラスカ・シェーデレーアを含む、まだある程度動くことのできるテラナーのチームが、ミモとともに零時間転換機のある惑星アルキミストに出発。そしてローダンは数ケ月過去へ赴き、ミモの計画を実行した。この時間パラドックスにより、PAD病はその影響も含めて全く存在しなくなった。

 3457年5月まではすべてが平穏に過ぎたが、そこでコル・ミモはその素顔をさらした。彼は本当はマルコール・ド・ラパル、零時間転換機の開発に大きく寄与したあるハイパー物理学者の息子だった。マルコール・ド・ラパルはペリー・ローダンの不倶戴天の敵であり、PAD病の間はただいけにえとなる者の関心を引いていただけだった。ド・ラパルは〈反それ〉の道具となっており、ペリー・ローダンを誘拐するとその脳を移植変換機で無限界へと照射してしまった。同時にローダンの体には〈反それ〉から操られるアンドロイド脳が置かれた。そして何度か太陽系帝国への潜入が試みられたが、結局アトランが疑念を抱き、アンドロイド脳は電撃作戦によって破壊された。ローダンの体は、来たるべき事態、本物の脳の帰還時の収容に備えて保存された。

 本物のローダンの脳は、住民にはナウパウムと呼ばれている渦状銀河内に実体化した。惑星ヤアンツァルの首都ノパロールで、ローダンの脳は「脳市場」にかけられた。重力場の特性のおかげで、ヤアンツァルはナウパウム銀河で唯一、地表でPGT方式を実用化できる惑星だった。その方式は完全な脳のままの移植を可能にする。

 ヤアンツトロン人ドインシュトはローダンの脳に目をつけ、それを買い込むとボルディンの体に移植した。ノパロールの町の地下墓所(カタコンベ)でローダンは追放された者たちと犯罪者たちとに出会う。その後すぐ、ローダン脳は肉体交易拡大のために避け得ぬ抗争に巻き込まれる。この時ヤアンツトロン人のハクチュイテンの体にいたローダン脳は、ナウパウムの最重要人物の一人ヘルタモシュの命を救った。

 故郷銀河のポジションに関する情報を求めて、ローダンは禁断の惑星トレクターに降り立つ。犯罪者集団は、知性的な脳でその意志に反してPGTにより移植され精神的肉体的に被害をこうむった、そんな存在すべてをこの惑星に必要としていた。ここでローダンは有力な同行者二人に出会った。トカゲ族ガイト・コールと、驚くべきことにアッカローリーの、ゼノである。

 ローダンはサイナック・ハンター、トリトレーアに追い詰められたものの、殺害意図は放棄させることができた。そのトリトレーアが苦境に立たされた。ある地下組織がヤアンツァルの政権の崩壊を目論んだのである。彼らはこの惑星のポジションを利用してナウパウムの他の種族を征服しようとした。組織の壊滅によりその首領はノクと判明。ローダンはノクとトリトレーアがユーロク人最後の二人であることを知る。この種族はナウパウム最古の種族のひとつで、1万年前には全銀河を支配していた。

 感謝の印としてトリトレーアはローダンに銀河ポジション捜索の助言を与えた。ローダンは惑星ホーントルで謎のペールツス人のヒントをもらう。

 ヘルタモシュはペリー・ローダンの助力で、死んだレイチャの後任に就任。耐えがたいものとなってきたナウパウムの人口増加による諸問題を軽減するため、隣接する大銀河系カトロンの探検を開始した。惑星ペンロックでヘルタモシュは、大ポジトロニクスの指揮下にあるロボット宇宙艦の大艦隊を発見。しかしこの惑星の本当の主は、化石化したあるペールツス人の脳だった。この化石脳から隊はナウパウムの生態汚染プログラムに関する情報を入手した。1万年の昔、ペールツス人はユーロク人と武装対立状態にあった。軍事上不利になった彼らは生態汚染を開始した。金属ウィフィノムにより、ユーロク人遺伝子群の生理的、性格的改変を生じさせ、結果ナウパウムには人口爆発が起こった。ペールツス人はそうすることで相手を全滅できると考えた。ローダンは、惑星プリムトでウィフィノムの採掘を指揮する制御ロボットを心理決闘で自滅に導くことに成功した。

 カトロン探検の次の目標は惑星パインテック。そこにも同じくペールツス脳がある。パインテックにもPGT方式の設備があり、加えてこの惑星はカトロン網の終点でもあった。殲滅艦隊の一隊が殲滅攻勢の一撃をヘルタモシュ艦隊に浴びせた。この攻撃を生き延びたものはわずかで、しかもナウパウムに帰還できる船はもはや一隻もなかった。ナウパウムからの救援を得るため、ローダンとトリトレーアはカトロン網、カトロンの惑星パインテックとナウパウム銀河のヤアンツァルを結ぶハイパーエネルギー結合を利用した。そこで分かったのは、ペールツス人によって人工的に作られたもので、3つの機能があるということだった。両惑星間の一種の転送の結合ができ、両惑星上でのPGT方式を可能にし、そしてナウパウムに蒔いたウィフィノムの生態汚染効果を強化し持続させるのである。

 ローダンの指揮で目標を目指す第2探検艦隊がカトロンに到着した。そこでガイト・コールとゼノは、「デログワニエンの人形使い」カリブソに会う。この謎の小人は、百万年以上前に盗まれてしまった殲滅服を捜していた。カリブソは、アラスカ・シェーデレーアがこの服を所有しており、銀河系にあることを知らなかった。シェーデレーアはそれを大群が銀河系を離れる前、サイノスのシュミットから譲り受けた。

 パインテックではローダンとトリトレーアの対決が再燃していた。トリトレーアはナウパウムの住人の利益のため、ローダン脳、その知性、感嘆すべき目的達成能力とオリジナリティをナウパウムに留めておこうとした。が、ローダンはサイナック・ハンターの計画を妨げた。カトロン網は破壊され、ナウパウムでのこれ以上の人口爆発の危険はなくなった。最後のPGT設備で、ローダンの脳は再び故郷銀河系へと照射された。

 ローダンは本来の体に戻った。帰還後しばらくして、またもや〈反それ〉による陰謀が巡らされた。しかし〈それ〉が対処済みであり、攻撃は防がれた。

 「宇宙の高次勢力」、2者のさらに上に位置する者が、戦いの終結後判決を言い渡した。〈反それ〉は何度もゲーム規則に違反したため、〈反それ〉は10相対単位の間、「無名ゾーン」へ追放処分となった。

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