8.大群(3438年−3443年、500巻−569巻)

 《マルコ・ポーロ》のグルエルフィンから銀河への帰還行が突然中断し、ホモ・スペリオルと名乗る新人類を支持する乗員によるテロであることが明らかとなった。ディメセクスタ駆動の修理を終え銀河に到着した《マルコ・ポーロ》は、時間膨脹によって3年を失ったことを知った。テラでは3441年になっていた。

 不可解な大群出現からすでに6か月、銀河は混沌状態に陥っていた。それは巨大な宇宙の創造物で、まるで小型銀河が動いているようだった。重力定数の操作によって、大群の支配者は銀河の知性体のほとんどを白痴化させていた。この白痴化に抵抗力のあったのは細胞活性装置保持者、精神安定化処置者、そしてほんのわずかな天然免疫者だけだった。苦労の末《マルコ・ポーロ》はテラニアの艦隊港に着陸。ローダンは免疫者を乗せ、大群へ向けてコルヴェット《グッド・ホープII》を発進させた。惑星ヒドゥンワールド1で一行は、シロアリの残余物から知性体の情緒復活効果のある油を採取している、人間の開拓者を発見した。

 ロワ・ダントンはアンソン・アーガイリスと協同し、オリンプの混沌状態を食い止め、まもなくタフンの秩序も回復させた。エドモンド・ポントナックはエイの形をしたマニップ船への潜入に成功。そこで彼は昆虫タイプの大群偽神の像を発見した。レジナルド・ブルもまた、その存在の痕跡をたどっていた。一方ペリー・ローダンは地球に短期帰還、ダントン、デイトンと協力して事態の収集に努めた。その後再び宇宙へと出発、大群偽神イザンティモナの痕跡を追った。彼はさいころの形をした《ディスカバラー》型大群宇宙船を追跡。その異質宇宙船は惑星エクソタ・アルファへ到達し、そこで測量と生態的気象的条件の分析を行った。その時の突発的交戦により、エクソタ・アルファ生れの蛮人サンダル・トークの妻が死んだ。トークの憎悪はとどまる所を知らず、報復を果たすためローダンに合流した。数週後ローダンは大群の敷設者のキノコ宇宙船の着陸を惑星テストケース・ロルヴィクで目撃。大群の敷設者たちは何らかの作業を行ったが、その意味はテラナー側には明らかにならなかった。

 《グッド・ホープII》は、危機の迫った精神体〈それ〉を助けるために人工世界ワンダラー・ベータへ飛んだ。5次元定数の微調整によって、大群の支配者は〈それ〉を排除しようとしたのである。救援への感謝として、〈それ〉はテラナーに助言を与えた。ポスビの二百の太陽の星に向かい、大群の支配者に対抗する兵器をそこで作れと。

 一方ブルとティフラーは銀河免疫者会議を招集し、大群に対抗する共同計画を練る。会議は失敗に終わったものの、秘密帝国からやってきた謎の黒衣のヒューマノイドが姿を見せ、ローダンに「過去の痕跡」を捜すよう要求した。

 ワリンジャーの工房星ラスト・ホープに集められていた8万人の科学者が、免疫USOスペシャリストらに護衛され、二百の太陽の星に移送された。ここは白痴化放射には襲われていなかった。あるパラ心理学的な実験の結果、グッキーは柔らかいバリアに包まれた大群への潜入に成功。クリスタル世界のひとつで黄色い征服者に遭遇した。彼らは捕獲した何人かのミュータントにも浴びせていたヒュプノ・インパルスを使って、そこから大群の動きに影響を及ぼしていた。

 この時、地球でホモ・スペリオル種族の支持者たちが、大群の支配者のほんのわずかな重力定数変更によって死滅してしまった。その後まもなく、惑星アグレスに大群の敷設者が着陸し、二次適応を開始した。これにより重力が引上げられ、大気温度も上げられた。ローダンは侵略者に対し初めて激しい攻撃を加えた。

 女性居住者が大半という惑星、ダイアナでもまた大群の敷設者による作業が行われた。この作業は各惑星を黄色い征服者たちの孵化星とするための準備だった。テラナーらは更に、1体の黄色い征服者が細胞分裂と体分裂で7体の新生児を生む場面を見た。

 しかし全ての太陽系がそれに適しているわけではなかった。大群勢力の目的にそぐわなかった太陽系は全て、キノコ船によって銀河の別の場所、「封鎖宙域」に移されていた。

 テラナーらは別の成り行きにも注目していた。例の「秘密帝国」について更に明らかしようという動きと、「知性体捜索隊(略称ISK)」の、未だ把握されざる銀河の知性体を結集しようという試みである。

 そしてテラナーらは、今こそ大群に対し積極的に行動する時だと判断。リバルト・コレッロの点火したセクスタゴニウム爆弾を使って《ジェヴァリ》が柔らかいバリアへ突入、数人のミュータントを乗せて大群内部に到達した。テラ白兵戦部隊はそこで黒い悪魔に遭遇。それはある普通の黄色い征服者から大群偽神の戦士として培養された生物である。ミュータントたちは悪魔の制圧に成功し、《ジェヴァリ》は惑星コクーンへ飛んだ。そこで見出したものは、この惑星には別の銀河系から黄色い征服者がやってきて入植していたこと。だが長い年月の間に、黄色い征服者に調節障害が生じた。高感染性の伝染病が発生、細胞増殖の暴走を招き、その結果不妊種となってしまった。テラナーらは、爆発的細胞増殖には免疫だがヴィールスは保有している、いわゆる免疫患者を発見。このヴィールスの分離に成功したことにより生物兵器としての見込みが生じた。

 大群のハチの巣船の隊形が崩れ、黄色い征服者の孵化用ハチの巣が惑星トラントゥス=トナに移送された所へ、テラナーが介入。黄色い征服者の分裂船団に反撃を加えることができた。

 その頃地球では、大部分の人間がもとの知能を一部回復していた。《マルコ・ポーロ》の乗員らも艦に戻ると宇宙空間へ出発し、やはり大群へ突入。大群の外では「秘密帝国」の主と自ら名乗るサイノスが動き始めた。その最初の攻撃は二百の太陽の星に向けられたが失敗に終わった。

 《ジェヴァリ》はそれとほぼ同時にインナー・アルファ星系に進出、しかしそこで部隊は星系を包むパニックフィールドに捕らわれた。テラナーらは「救いの目」と呼ばれるものに引き寄せられ、時間の虜囚となった。

 この星系の唯一の大型惑星ゲプラIは、黄色い征服者の孵化用ハチの巣の生産地だった。この惑星は大群偽神の一人イザントラモンの支配下にあったが、やってきた《マルコ・ポーロ》の部隊に殺された。

 アラスカ・シェーデレーアは、大群の支配者の武器工場のひとつであるゲプラIIの命令権者、大群偽神クリト・イトリモナと対決。そこには分裂寸前の黄色い征服者が確保されていた。この作戦の途中、シェーデレーアはトカゲに似た種族ラクーンに出会った。彼らは大群の支配者の戦闘要員にされており、「ヒュプノ凝視」という特殊能力を持つ。さらに、シェーデレーアには不思議な少女キトマとの2度目の出会いがあった。彼女はある異種族の出身であり、アラスカ・シェーデレーアに不思議と親近感を持っている。

 一方テラナーは大群の外で、謎に包まれたサイノスについて更に詳しい情報を得た。それは体の特殊調節能力に関する情報で、彼らの体は超物理学的な鏡面の性質を持つというものだった。サイノスに生殖能力もあるのは、数日前にミュータント部隊に加入したハーフサイノスのダライモク・ロルヴィクによっても明らかだった。ロルヴィクとそのサイコパートナー、火星人タッチャー・ア・ハイヌは、この混乱期にはテラナーの頼みの綱だった。

 科学者たちは二百の太陽の星に来て以来初めての成果をあげた。携行する者を大群から発せられる力に対し免疫にする装置の開発に成功したのである。グッキーは、大群偽神ことカルドゥルスの秘密を暴いた。惑星アライバルで発見したこと、それは黄色い征服者の新生児の腺からある分泌物が得られ、これが偽神たちの寿命を延ばし、活動力が甦らすという事実だった。黄色い征服者には「渡り鳥衝動」があり、不妊にならないように常に移動し続けていなければならない。その生命仙薬に頼っている大群偽神はこの旅行について行かねばならない。黄色い征服者ことカルティスの分裂の際カルドゥルスを発狂させるプシオン放射が発生するため、分裂行為はいつも柔らかいバリアの外で実施されなければならない。必然的に起こる各銀河系住民の抵抗は白痴化放射で潰される。マニップ船による宙域の先行調査の後、《ディスカバラー》が目標惑星に飛来、分析を行い、キノコ船の到着準備を進める。この大群の敷設者の特殊宇宙船は、既に操作済みの5次元フィールドライン重力定数の微調整を行い、選んだ惑星の重力を上げ、大気温度も上昇させて、黄色い征服者の増殖の必要条件を整える。最後にハチの巣船に乗ったカルティスの孵化用ハチの巣がその惑星に運ばれ、そこで増殖を行うのである。

 かくしてテラナーに、最も重要視されていた大群の段取りが明らかとなった。

 そして3442年、何をおいても避けたかった事態が起こった。大群がソル系をその組織に組み入れたのである。これによりソルは11000光年×2000光年の大きさの大群の約80万の恒星の一つとなった。星系を包むパラトロンシールドは、その投射施設がホモ・スペリオルの支持者によって白痴化時期に破壊されていたため展開できなかった。そこで大群の支配者に人類の本当の進化段階を分からなくするため、発展途上文明を装い、完全な5次元静寂を維持した。しかしこの偽装は長くは続かなかった。接近する大群艦隊の勝利がもう目前となったその時、パラトロンシールドをソル系の周囲に築き上げることに成功。テラナーはサイノスと協同し、中央制御惑星スタトを爆破した。この瞬間から大群は遷移ができなくなった。大群の住人ももはや立ち去ることもできなくなったため混沌状態となり、中でも出産抑圧を引き起こしたカルティスが顕著だった。彼らの一部は禁令を無視して大群内部のある惑星で分裂しようとしたため、原住民のツボッドの襲撃を受けた。

 カルドゥルスは一撃を加えんとハイパーストームによる地球掃討を狙うが、テラナーはハイパーパワーによる攻撃に耐え切った。太陽系はしかし900光年ほど空間的に動いてしまった。

 ほぼ時を同じくしてサイノスがようやく沈黙を破った。一人がテラナーに黄金リングに囲まれた惑星トロンコ・イ・アルテフォへの道を示したのである。しかしタボラと呼ばれる大群掌握への鍵は、そこにはもはや無かった。鍵は宇宙大盗賊パイウン・クアサルティクによって持ち去られてしまっていた。

 グッキーは大盗賊の本拠地でタボラの入手に成功。が、それもつかの間、ハイパー空間に隠された惑星スタトIIへと、それは消え去ってしまった。スタトIIはかつてサイノスがスタトIの故障に備えて設置したものだった。サイノスのシュミットは更に秘密を打ち明けた。数百万年前、大群は宇宙に知性を行き渡らせ、育むために誰かに建造されたのだと。長い長い年月の後に、サイノスが大群の管理者となった。長い旅の途上でカルドゥールスが大群組織に編入され、サイノスによって超物理学的に操られた。この状態は2万年以上に及び、カルドゥルスによる予期せぬ造反によって終わりを告げた。この反乱を助長したのはサイノス、ヘスツェ・ゴールトの背信行為だった。

 これにより、サイノスが人工的に育てた存在のひとつであるタボラはカルドゥルスの手に渡り、大群権力掌握を支えた。サイノスは大群から追放され、それが当時(およそ1万年前)のこの銀河にやってきたというのが、サイノスの銀河系世界移住の顛末というわけである。サイノスの長である九人のイマジナールは自らをエネルギー凝集体に変え、大群奪還の時をスタトIIでじっと待っていた。サイノスのシュミットとノストラダムス、それぞれイマーゴI及びIIとも呼ばれる彼らは九人のイマジナールの忠実な部下だった。

 シュミットはタボラを用いてエネルギー凍結状態にある九人のイマジナールを破壊し、自身もタボラの中へと消えた。このエネルギーミイラの壊滅によって解き放たれた、プシ効果を伴うハイパーエネルギーの津波により、カルドゥルスは全滅した。

 ノストラダムスはスタトIIのコントロールを引継ぎ、大群の新しい統率者となった。テラナーはテラを大群から引き離すよう要求し、2派に分裂したサイノスとの間に危機が迫った。そこへ予期せずオヴァロンがカピン戦隊と共に姿を現した。グルエルフィン出発後テラナーからの連絡がなかったその理由を明らかにするためだった。地球は再びもとの位置に戻され、大群はサイノスの指揮のもと銀河を離れ、再びその本来の任務に戻った。

 大群撤退後、テラナーには答えのない多くの問いが残された。大群を作ったのは誰だったのか、そして宇宙の知性の適切普及の陰に潜む者は誰なのか。

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