プロローグ

 自分は特別な人間じゃない、あなたは一生ずっとそう思い続けます。とびぬけた才能があるわけでもないし、外見が目を引くわけでも、性格が目立って良いわけでもありません。小さい頃描いた立派な目標はとうにどこかへやってしまっています。じっと我慢をしていますが、それは崇高な使命を果たすためではありません。実はそんな使命なんてどこにもないのです。あなたの手に入れるもの、それは自分のためにと頑張ったものばかりです。
 だからこそ、と人は言うでしょう。自分に負けず、素質を生かして自分に真に相応しい大きな目標を、と。それは正しいかも知れません。しかしその目標はカゲロウがもう一度太陽が昇ることを夢見るに等しいものかも知れないのです。そうだとすると、夢は決して実現しません。充実感を味わうこともありません。求め続けた目標がまだまだずっと遠くにあるのに、自分がピークに来てしまいます。これを悟るのは辛いことです。また、ひとりひとりは他人と根本においてなんら違いはありません。自分の真価を高く見積もり過ぎたとき、この苦い事実も悟らなければなりません。
 そんなに大袈裟に考えたことはない、ただちょっと振り返ってみただけ。本当に不満を抱いたことなんてありません、今やっと終えたことに、…そして今までの自分の人生に。それどころか、一度はプライドとかいうものまで感じていました。「ちょっとやった」だけなのに。そしてものすごく悔やみました。あまりにもたくさんのものが欠けていたのです。何か例えば必要な才能とか、カリスマ性とか。その上ある種の何か例えば機知とか、そう、健全な生まれながらの才能とかも。こんな正直な自己分析は必然的に、自分は卓越した部類には属さないし、まして中庸でもない、という見識に行きつくわけです。
 しかしこれは一挙に、突然に変わりました。何かがあなたをかすめ、何か特別なものにしてしまいました。
 今あなたはある使命を持っています。それはあなたにとって満足なものです。こうしてあなたは突然悟るのです。自分は高みを目指しているんだと。
 あなたこそ選ばれた者なのです。
 あなたは一生ずっとこう思い続けます。名もない一人の人間になろう。するとあなたに『お呼び』がかかります。それはあなたにとってちょうど、…ちょうどあこがれの夢の実現のように。あなたがかつていつも空しく追い求めていた夢の。
 しかしセト=アポフィスのやり方とは何と神秘的なのでしょう。しかし安心してください。いつかはあなたも我に返るのですから。

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