ハンザキャラバンは目標到達前の最後の中間停留点にやってきていた。380隻からなる隊の、半分はカラック、残りは軽や重のホルクだった。半ダースのコッゲがそれに続いた。
 旗艦の《カラード》もコッゲで、全長はたった110メートル。精密機器を少々積んでいる。
 ハンザキャラバンは数日前太陽系を出発、大マゼラン雲を目標にとった。正確にはマゼラン雲のトルペックス通商センター。
 トルペックスは、かつて時間融解と呼ばれる放射にさらされ、撤収を余儀なくされた。時間融解が全て鎮静化された後、時間塵芥によって損害を受けた通商センターを片付け、可能ならば再建するべく人員が派遣された。トルペックスでは、この作業はベルゲン宇宙バザーが担当した。三ヶ月たった現在、トルペックス通商センターはあらかた修理が終わり、新たに出品できるようになった。
 船倉に積めるだけ、それこそはちきれんばかりに商品を積んで、大マゼラン雲で売りさばく、それがこのハンザキャラバンだった。
 この隊は入手できる範囲で最新のメタ重力駆動を全船装備している。これは全行程を一回の超光速フェーズで踏破できる。にもかかわらずノンストップ航法でない時間のかかる方法をとるのは、なにより17万光年近い長距離だからである。
 超空間航行には必ず微小の航路誤差が生じ、それは踏破距離に比例して拡大する。今回のような場合、宇宙船団全体が分散して虚空の広範囲にちりぢりになってしまいかねない。一方ハンザ同盟の安全規定では、キャラバンにおける編隊は十分密集した隊形をとるべしとなっている。その結果どうしても時間のかかる航法をとり、このような長距離を休み休みこなすことになるのである。
 船の再集合にはこのような中間停留点が設けられ、そこで各船は互いに500キロまで接近する。次の超空間フェーズで再び密な隊形をとり、可能な限り航路誤差を小さく抑えるためである。
 ハンザキャラバン・マゼランでは従来目立った突発事故は一切起きていない。最後のこの中間停留点への集合もお決まりの面倒な手続きと思われていた。
 目標の1万光年手前で380隻はぴたりと同時に超空間航行による超光速フェーズを終え、アインシュタイン宇宙へ潜り込んだ。第1次測定では許容限界を越えた船がいくつかあり、最寄りの隊から2千キロ以上離れていた。が、予定通りである。キャラバンは現在のところ順調に進んでおり、ほとんどの乗組員はもう着いたも同然と、積み荷の荷揚げやらトルペックス通商センターの新設備の構造やらで頭がいっぱいだった。
 そこへ隊の一隻が行方不明であるとの突然の報告が届いた。それはなんと旗艦の《カラード》だった。ルーチン作業でたるんでいた乗組員らは茫然となった。しばらくの間手のつけられない混乱が続き、ハンザキャラバンの秩序は重大な危機に陥ったと見えた。
 しかしやがて事態は明らかとなった。《カラード》は発見された。約20万キロ後方に停泊していたのである。今回の超空間フェーズで踏破した3万光年に比べたら笑止な隔たりだ。しかしいったいどうしてこのようなことが起こったのかと、誰もが考えた。正確な航路同調とメタ重力駆動の精密動作からして、これほどの誤差は生じるはずがない。
 《カラード》探知とほぼ同時に、当の旗艦からこの航路誤差の説明を含む通信が届いた。
 アニヤ・ピュグネル艦長は次のように述べた。《カラード》は最後の超光速フェーズでエネルギー切れを起こした。グラビトラフタンクはほぼ空と見られ、グリゴロフ層、つまり艦を超空間の影響から遮断する部分をもう保持できない恐れがあった。異宇宙への転落の危険を避けるためには、一瞬早めに超空間航行を中止せざるを得なかったと。
 説明が簡単だったのでいくつか質問が飛んだ。例えば、乗員は前回の中間点にいる間にグラビトラフタンクのエネルギーストックが残り少ないことに気づかなかったのか、などである。というのも、ハンザキャラバン・マゼランの380隻は各船十分なエネルギーストックを太陽系出発時に蓄えており、行程の倍の距離をこなせるはずだった。
 「グラビトラフタンクは最後の超空間フェーズでいきなり空っぽになってしまいました」アニヤ・ピュグネルは通信で説明した。さらに質問に先回りしてこう補足した。「こちらはこんな事態は予想していなませんでしたから、謎解きにはこれからかかります。もう調査は始めました。とにかく、超空間に穴をあけてグラビトラフタンクを充填しないと」
 技術的には、エネルギー充填の件は時間がかかる以外は問題はない。だが、時間すなわち宇宙ハンザ同盟の金である。この物騒な時代では軽視すべきでない観点といえよう。
 超空間への穿孔にはハイパートロップと呼ばれる一連の手法が使われる。すると巨大な漏斗状の光が生じ、広範囲にわたって強いエネルギー流が観測されることになる。
 よって燃料補給作業の間《カラード》は非常に高い探知の危険にさらされる。つまり敵対勢力から発見される危険である。
 ペリー・ローダンはこの年の1月半ばに、宇宙ハンザ同盟の第2の意味を一般大衆にも明らかにしていた。あるものの『対抗勢力』。その名前はセト=アポフィス。
 敵は徐々に380隻の乗組員の心に侵入するので、突発的な事故にはいつも注意を払わなければならない。
 普通の技術的故障とは思えない。むしろ、サボタージュでは。一度はそんな声もかなり上がった。そんな話にアニヤ・ピュグネルは簡潔な説明で応じた。
 「この事件は、目下調査中」



 アニヤ・ピュグネルは《カラード》艦長になってもう10年になる。彼女は大きな船への誘いを断り続けていた。速くて扱いやすいコッゲで出撃する方が好きだったからでもある。加えて彼女はハンザスペシャリストに昇格していた。つまり、そろそろ裏事情にも通じるようになっており、宇宙ハンザ同盟の二面性もとうに見抜いていたのである。
 そして超知性体「それ」がセト=アポフィスへの対抗勢力を作るためにこの交易組織の設立を指示したことは広く明らかとなった。これにより極秘行動の大部分は無用となり、《カラード》も別の任務につくようになった。アニヤ・ピュグネルは結局ハンザキャラバン・マゼランの司令官にという勧めを受け、一も二もなく乗った。彼女にとってはこの種の大きな任務は初めてで、よりにもよって最初の洗礼をグラビトラフタンクに浴びたというわけである。
 前回の中間停留が終了してまもなく、《カラード》が超光速フェーズに入ると、突然警報装置が鳴りだした。機関室からの報告ではタンクのエネルギーがまさに爆発的に超空間に流出してしまったという。このままだとグリゴロフ層が崩壊して、船が並行宇宙に転落してしまう。そのカタストロフの結果どうなるかは未だ知られていない。
 とっさの衝動にかられて、アニヤはアインシュタイン空間へ戻ろうとした。がそこへ技士長のホガード・レスコから、この超空間フェーズの間くらいは手持ちのエネルギーで十分《カラード》を動かせると言ってきた。混乱を避けるため、およびキャラバンと行動を共にするため、アニヤは飛行続行を指示した。
 この賭けはなんとかうまく行った。アニヤは、タンクからさらにエネルギーが流出したらどうなるか考えたくもなかった。幸いにもそんなことは二度と起こらなかった。
 まもなく経過報告が提出されてきた。しかし何とも不十分なものだった。技術点検によって、爆発でタンクに損傷が生じていたことが明らかになった。突然自由になったエネルギーは連鎖反応を引き起こし、システムに過負荷が生じた。超空間へのエネルギー放射は自動安全装置の作動によるものであった。さもなくば《カラード》は爆発したか、運が良くても上位連続体に引っ張りこまれただろう。
 これが技術調査結果だった。不十分な点というのは他でもない、爆発の原因が明らかにされていないのである。
 十分な技術的根拠のある説明は一切なかったが、推測はあった。爆発箇所に細工があったのではないかということである。むろんサボタージュが可能だったという証拠はないが、完全には否定できない。
 爆発によって生じた損傷はまもなく修復され、アインシュタイン空間へ再進入してすぐホガード・レスコから報告があり、いつでもハイパートロップを開始して必要なエネルギーを超空間から吸引採取できるとのことだった。
 「それほど根本的にひどいってわけじゃありませんよ、この状況は」ホガードは言った。「タンクへの積み込みはせいぜい2〜3時間余計にかかるだけでしょうし。中間停留点の滞在期間が目に見えて長くなるわけじゃありません。ハイパートロップを開始してよろしいですか?」
 「いえ、もう少し待ちます」アニヤ・ピュグネルは言った。「まずキャラバンとコンタクトを取りたいですね。ジャスパー・ベイスを出して下さい。」
 ジャスパー・ベイスはキャラバン副司令でカラック《イントローラ》の艦長だった。アニヤは通信回線をつないで副司令に状況を話した。ただし事態を重要視しておらず、もはや些細な出来事であるとして。
 「サボタージュの臭いがプンプンしますが」ジャスパー・ベイスは言い張った。「そもそも根拠は全くないんですか?責任者への容疑もないと?」
 「何よりも動機が見当たらないのよ」アニヤは説明した。「爆発による損傷は軽微だったし、ちょっと時間を食っただけだから。それもほんの数時間」
 「そいつはしかし宇宙ハンザ同盟にとっては数百万につきますがね」ジャスパー・ベイスは食い下がった。
 「それが十分な動機になると思う?」とアニヤはからかうと、ベイスが首を横に振って否定するのを満足げに見て、こう続けた。「これからどう動くべきかが当面問題なんだけど、ハンザ同盟はちょっとは金を節約できるのよ、あなたが《イントローラ》でキャラバンを率いてトルペックスへ出発して、こちらは燃料補給してからすぐ追いかけることにすれば」
 「わたしは気に入りませんね」ベイスは反対した。「トルペックスへはまとまって飛んで行くことになってますし。だからこそキャラバン隊形で飛んでいるんじゃないですか。わたしとしては、一隻たりとも置いて行きたくはないですね」
 「じゃあ、こちらにコッゲを5隻護衛によこして」アニヤは言い返した。「その火力でどんな攻撃でもかわして見せるから。取り越し苦労だと思うけど。そもそも誰がこの《カラード》をねらうって言うの。カラックの積み荷のほうがよっぽど魅力的でしょうに」
 「ところが偶然にも《カラード》は旗艦でしてね」ベイスは言った。「で、問題になりかねんでしょう、あっちに着いた時通商センター長が乗ってないと。フレム・サムハーゲンがいなきゃトルペックスに着いても何にもなりませんよ。到着まで積み荷の荷揚げもお預けになっちまう。だからわたしはキャラバンはまとまって目的地に飛んだ方がいいと思うんですがね」
 2人は、《カラード》がグラビトラフタンクにハイパーエネルギーを充填し終えてハンザキャラバンの先頭に復帰するまで、残りの船を待機位置へ向けて航行させておくべきだということで合意した。
 「本当に間違いないんですか、サボタージュの考慮の余地が誰にもないのは」ベイスはまたその話題を蒸し返した。「マゼラン雲出身の異人、例のカメリア人はいったいどうなんです。奴さんも本当に間違いないんですか?」
 「ちゃっかりシュバーヴォ、のことね」アニヤは笑って尋ねた。「彼がそう考えたのなら、こんなに早くは目的地に来れなかったし、私たちとマゼラン雲諸種族との交易に興味があるだけじゃなくて、種族のセト=アポフィスからの庇護も求めてるのよ」
 「それもカムフラージュかも」
 「で、動機は」アニヤは言った。
 「一度シュバーヴォを、貿易関連に興味を持つカメリア人としてじゃなく、潜在的なセト=アポフィスのエージェントとして見てみるべきですね」ベイスは強く言った。
 「それは船に乗っている誰もに言えることでしょ」アニヤは答えた。
 それで会話は終わり、アニヤ=ピュグネルは通信を切った。映像が消えるか消えないかのうちに、甲高い声が《カラード》の司令センター中に響きわたった。
 それはまぎれもなく、ちゃっかりシュバーヴォ、その人だった。
 「この不当な遅延はどういうことだ」彼は憤激の声を張り上げた。「あんたらは本当はタンクに充填する気などなくて、目的地に着かない算段をしているのか?それとも宇宙ハンザ同盟が、マゼラン種族との貿易及び援助協定に興味はないというわけか?」



 シュバーヴォはトルペックスの通商センター長フレム・サムハーゲンを連れて司令センターに現れ、たちまちその甲高い声で注目を集めた。そのカメリア人は続く鳴り物入りの場面で大声と大袈裟な身振りとをひときわ目立たせた。自分が決して持ってはいない価値をなんとかそこで装おうとしたのである。だがシュバーヴォが長々とわめき続ける間、みな邪魔もせず、なるべく言葉に耳を貸すようにしていた。シュバーヴォは《カラード》の船内で特権的な自由を得ていたわけだが、そのことは自身知っていたとしても、態度からはうかがえなかった。
 「ああもう黙らないか、シュバーヴォ」フレム・サムハーゲンがたしなめると、シュバーヴォはむくれて黙り込んだ。
 シュバーヴォは身長1m70、格好はヒューマノイドだが人類との類似点は多いとは言えない。頭1つ、胴体1つ、腕2つに脚2つ、みな人類に近い寸法で、同じ順序である。が、そこまでだった。
 頭は亀に似ていた。特にくちばし状に混然となった口部と鼻部、そして灰褐色の皮膚に一面に寄った皺。シュバーヴォには自分の色調を思い通りに変えて、周囲に溶け込む能力があった。これはカメリア人の名の由来でもある。ニックネームがいつの間にか定着したようなものだ。
 ほっそりとした頑健な体躯に細い腕と脚。関節には軟骨によるものか、太くなった部分がある。手には指が五本、細長で、どんな知覚も逃さない極めて敏感な器官として働く。そのため非常に器用である。その技巧は芸術的とも言える域にある。
 ぴったりとしたねずみ色のコンビネーションはテラで採寸させたようだった。それをしょっちゅうつまんでは、この服を着ていることが自分にとってどれほど不快かを、どうも訴えているようだった。しかしこれは仕方がない。彼の場合、このコンビネーションを着るということは単にエチケットの問題だけでなく、その迷彩能力を考えると着ていてもらわないと困る。
 フレム・サムハーゲンは彼の近くではがっちりとして見える。陸上選手の体格と角張って日焼けした顔、銀色をした、たてがみのようなぼさぼさの長髪。どんな試練にもびくともしない、まさに豪胆不屈のテラナーといったタイプ。しかしトルペックス通商センターの喪失はさすがにこたえた。シュバーヴォは語る。彼は通商センターを離れることを最後まで拒んだ。最後の救命艇に乗せてしまうためには、彼の妻に頼んで麻酔を打ってもらわざるを得なかったと。
 彼はその後その妻と別れ、彼女はトルペックスのチームを去った。
 「予期せぬ事態でも起きましたか」サムハーゲンはアニヤ艦長に尋ねた。
 「いえ、組織にはよくある問題がいくつか」アニヤは答えた。「それは終わりました。もうハイパーエネルギーをタンクに充填する作業にかかれます」
 「少し変なやりかただが、何か別のエネルギーをつめるわけにはいかないものかな」サムハーゲンが渋面を作りながら言った。「注入の間何光年も置いていかれるんだろう、それとも私の思い違いかね」
 「おっしゃる通りですが、残念ながら変更はできません」アニヤの答えはこの相手に対してとりうるかぎりの、事務的なトーンだった。「不安材料は全くないと思います」
 「とにかく、ここを一刻も早く発つべきですな」サムハーゲンの言葉は命令に聞こえた。
 アニヤはうなづくと、ハイパートロップ装置の起動を命じた。そしてふと、自分は単にサムハーゲンの命令をそのまま回しただけだった、と気付いた。アニヤは唇をぎゅっと噛みしめ、通商センター長はもう無視しようと心に決めた。しかしいくら装置の計器類に集中しようとしても、彼の側近まで無視しようというのは無理な相談ではあった。
 アニヤは宇宙を映し出している映像をじっと見つめた。そこには大マゼラン雲がくっきりと見えていた。しかしやがてこの背景の前に明るいぼんやりとした箇所が映り、ゆっくりと広がって光度も増していった。
 増していく光度とともに、光る像は形をも変化させていった。ミルク色の雲が青味がかった漏斗になり、ますます明るい光線を放ち始めた。やがてその漏斗状の光輝の膨脹は頂点に達したらしく、形も色も安定して、目に痛いほど青白く燃え上がった。
 「このハイパートロップは3倍容量ですな」後ろでサムハーゲンの喋っているのが耳に入った。「性能限界まで持っていけば、相当時間を切り詰められますが」
 アニヤはそれには答えず、むしろ型通りに流入報告の受理を告げることで、流れ込むハイパーエネルギーをグラビトラフタンクが順調に受け入れていることを彼に知らせようとした。
 「エネルギー流入量を増加すべきでしょう、少なくとも倍に」サムハーゲンがまた背後から口を挟んだ。「このだらだらした仕事ぶりは、いったいどういうおつもりか、アニヤ・ピュグネル」
 「これは私の船です、フレム・サムハーゲン」アニヤは相変わらずの冷たい口調で自分の背後に告げた。「そして、ここでは決定するのは私一人です。充填を早くするか遅くするかは、私が必要に応じて決めます」
 二人の視線が合った。サムハーゲンは無表情な顔をひきつらせながら言った。
 「あんたがこの遅延の責任をとるというなら、好きにしたらいい。このことはベルゲン・バザーに出す報告書に書かせてもらう。それからもう一点。シュバーヴォをスケープゴートにしようとしたこともな。あんたの代理との話の最後はこの耳で聞いたぞ」
 「それなら私がそんな告発を相手にしなかったのも聞いていたんでしょうに」アニヤは怒って言った。
 「それだけでは困るな」サムハーゲンは言った「あんたにはこの事件の究明に努める義務がある。シュバーヴォへの疑いを晴らすためにだ。ひとつじっくり考えねばならんな、何故あんたがそうしないかを」
 アニヤが怒りをぐっとこらえ、何か言い返そうとしたその時、《イントローラ》からの緊急度第1級のコールが入った。同時に中央司令室に警報が鳴り渡った。アニヤは思わず計器とスクリーンとに目をやったが、ハイパートロップ漏斗には何の異常も見られなかった。アニヤがほっとひと息つこうとすると、《イントローラ》との映像通信接続がモニターに回され、ジャスパー・ベイスの声がラウドスピーカーから響いて来た。
 「そちらであの物体の計測はしました?」
 「どの物体?」アニヤは訳がわからずそう聞き返してしまい、流れ込んでくるデータを監視していたエドガー・ライビッツ計測チーフが手でこちらに合図しているのを見落としてしまった。
 「どの物体…何とまぁ呑気なことを!」ベイスの声は芝居がかって大きかった。「なるほど、《カラード》は全員居眠りしていたと?そちらではこんな大きな物の計測もしていないと?全長数キロはある巨大な航行物で、今までにお目にかかったことのない形状をしてる」
 ようやくアニヤも計測画面上の最新報告に気がついた。
 「ああ、分かった。計測結果もあります」
 とは言うものの、アニヤは状況の全体まではまだ把握しきったわけではなかった。どうにか徐々に、宇宙の奥から何がここにやってきたのかを、つかみかけてきたといったところだった。
 その物体は球状の部分とシリンダー状の部分とから成っていて、トータルで全長4キロあった。
 「で?」ベイスの興奮した声がまた耳に響いてきたのに気付いた。「これで、サボタージュの動機ってのが分かっただろう?そっちのハイパートロップ漏斗はな、何光年も先からわかる、宇宙の狼煙みたいなもんなんだ。あんたらはな、間違いようもない、簡単に発見できる目標なんだよ、アニヤ!」

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